じゃあなんでキスしたんですか?


長身にぴったりとまとった細身のスーツ姿は、薄暗い光の下でもモデルのようなオーラを失わない。

「あ、いえ。そろそろ帰ろうと思ってたところです」
 
広報課の課長であり、社内報編集室の編集長でもある森崎さんは、デスクに落ち着くとちいさく首を回した。

うっすら浮かぶ疲労の色さえ、整った顔に色気を添えている。

「桐谷のインタビュー、よく取れたな。ああ見えて堅物だから大変だったろ」

「あ、はい。でもデートのときに」

「デート?」
 
凛々しい眉が不審げに寄って、わたしはあわてて首を振った。

「あ、いえ、デートっていうか、桐谷さんがマネージャーをしていた店舗に連れてってもらって。いろいろと教えてもらったんです」
 
わたわたと説明をすると、森崎さんは一瞬黙り込んでから「そうか」とだけ答えた。

まとわりつくような沈黙に、息をうまく吸えなくなる。
 
桐谷さんとふたりで出かけたなんて、言うべきじゃなかったかも。

「あの、わたしの記事、その、……変でしたか?」
 
机の上を片付けて帰り支度をしながら、さりげなく問いかけた。

「インタビューっぽくないって、指摘されて……」
 

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