じゃあなんでキスしたんですか?
肩を怒らせて帰っていった大橋さんの言葉は、偏頭痛みたいに頭の隅っこを締め付けている。
いくらはじめての仕事だからって、社長をはじめ全社員が目にする社内報でおかしな内容を書いてしまえば、編集室そのものの信用を失墜させかねない。
そんなことになれば、わたしを編集室に呼んでくれた森崎課長に、すごく迷惑がかかってしまう。
「ああ、たしかに文章がぎこちなかったな」
「やっぱり……」
ぎしっと椅子を鳴らして、課長は背もたれにからだを預けた。
大柄な彼に、みんなと同じオフィスチェアはとても窮屈そうだ。
組んだ長い脚を包むトラウザーズには、きれいに折り目が入っていて、森崎課長の几帳面さをほんのすこし演出している。
「ページ構成は垢抜けないうえに、デザイン重視の書体で読みにくかった」
「うう」
できれば発行前に言ってほしかった。とはいっても要領が悪くスケジュールぎりぎりで校了したせいで、細かな部分を修正をする時間はなかったのだけれど。
首をすくめると、笑いの混じったため息が聞こえた。
「けど、楽しんで作ったってことは、誌面から伝わってきたよ」
森崎課長の声から刺が抜けて、わたしは顔を上げた。