じゃあなんでキスしたんですか?

 
「社内報のいちばんの目的は情報共有だが、会社の理念や働く楽しさを全社員に伝えられる、唯一無二のツールだと思わないか」
 
空気をつたう低音に、胸が震えた。

「働く、楽しさ……」
 


――この会社に入ったら、あなたはどうしたいですか。
 
広いテーブルの向こうで見定めるような視線をよこすおじさんたちに、リクルートスーツを着込んだわたしが、虹彩にきらきらとたくさんの光を湛えて答える。


――楽しい会社にしたいです!


求められていた回答はきっと、『入社後に会社で具体的にやりたいこと』だったのだと、今なら分かる。
 
面接官による質問の意図に気づかなかったわたしは、なんだかズレた答えを、その場にいた誰よりもはっきりと、自信たっぷりに口にしたのだ。
 
あっけにとられた人々を前に、恥ずかしさも、決まりの悪さも感じなかった。
 
だってそれは、本心から出た言葉だったから。
 

森崎課長のセリフに呼び戻されるようにして甦った志が、気持ちを揺さぶる。

「わ、わたし、頑張ります!」
 
堪えきれない熱を吐き出すように、叫んだ。

「絶対、いい社内報、つくりますから!」
 
無感情だった森崎さんの瞳に、優しげな色が灯る。

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