じゃあなんでキスしたんですか?
*
「つか、なんで森崎さんがいるんすか。確か酒ダメでしたよね」
「……半泣きで頼まれて、断れる奴がいるなら連れてこい」
化粧室から戻り、ぼそぼそと話している彼らの背後で立ち止まる。
会社からほど近い大衆酒場はあいにくテーブル席がいっぱいで、わたしたち三人は頭上の棚にインテリアのようにさまざまな種類の日本酒が並べられたカウンターに通された。
森崎課長と桐谷さんはとなりあった席に飛び石のように一席ずつあけて座っていて、どこに座ろうかとしばし悩む。
右側にいる桐谷さんのとなりか、二人のあいだか、それとも……。
「いやいやいや、なんでそっち座ろうとしてんだよ」
わたしに気づいた桐谷さんが大げさに手を振り上げる。
「真ん中空けてんだろが」
森崎課長のとなりに座ろうとしていたわたしは、あきらめてふたりのあいだで所在無さげにうずくまっている椅子に手をかけた。
「おい、なんだよその顔は。いちいち腹立つヤツだなぁ」
嫌そうに唇をゆがめながらも、わたしに好きなものを選べとメニューを渡してくれる。