じゃあなんでキスしたんですか?
いままでどうして平気だったのか不思議なくらい、カウンター席はとなりが近くて、季節外れのストーブに当たってるみたいに肌が燃えはじめる。
おかしい。
わたしは妹とちがってお父さん譲りの上戸だから、お酒の一、二杯で熱くなることなんてまずないのに。
「えーどこがっすか」
いろんな意味で顔に出やすいらしい桐谷さんが、アルコールで染まった顔をカウンターのうえに突き出し、森崎課長を見やる。
「こいつの甘ったれた感じとか、めっちゃ末っ子気質じゃないっすか」
「確かに不器用なとこはあるけど、意外と面倒見がいいし、我慢強いぞ」
森崎さんの長い指の間で、透き通った胡桃色の液体がグラス越しに揺らめく。
「なんとなく長女っぽいところがあるなと思ってた」
正面を向いたまま低く紡がれた声に、胸の奥がしびれる。
「森崎さん」
「いやー買いかぶりすぎっしょ」
右隣から伸びてきた手が、わたしの背中をばしばしと叩く。
せっかく高揚していた気分が無遠慮に散らされていく。