じゃあなんでキスしたんですか?

 
このあいだから腕をつかんだり、頭をわしづかみにしたり、桐谷さんのスキンシップはとどまることを知らない。

そういえば最初に会ったときなんて胸に顔を埋められたんだっけ。

まあ、あれは不可抗力だったけれど。

「ていうか、何かにつけて触るのやめてくださいよ」
 
胸を隠すようにしてからだを引くと、桐谷さんは何かがひっかかったようにちいさな顔を傾けた。

「そうそう、さっきも思ったんだけど、おまえさ、もしかして男性恐怖症?」

「えっ」

「ちょっとくらいのことで過剰反応すっからさぁ」
 
とっさに左を振り返ると、表情の変化が少ない森崎さんの顔にも驚きの色が浮かんでいる。

わたしはもうほとんど入っていないビールのグラスを引き寄せた。

水滴に濡れたガラスの冷たさが、汗ばんだ手のひらに心地よく吸いつく。

「い、いえ。別に恐怖症というわけじゃないです。ただ、男性に対する免疫が少ないっていうか」

「は? もしかして男と付き合ったことねぇの?」
 
馬鹿にしたような口調にかちんときた。

「しょ、しょうがないじゃないですか! 中学から大学までずっと女子校の寮に入ってたんですから」

「うげっ、まじかよ」

「な、なに引いてるんですか。だって出会いがなかったんだからしょうがないでしょ」
 
桐谷さんに向かって声をとがらせながら、横目で森崎さんを見る。


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