じゃあなんでキスしたんですか?
うざったいくらい感情表現が豊かなエースに比べて、課長は何も語らない穏やかな目をグラスに注いでいる。
こちらの話は聞いているみたいだけど、反応がなくてすこし心配になる。
森崎さんも、彼氏がいたことのないわたしに、引いてる……?
「女子大なら合コンとかあっただろ。共学の比じゃないくらい頻繁に」
カウンターの向こうにドリンクの追加オーダーをして、桐谷さんが言う。
わたしは女の園に埋もれていたころの自分を思い出した。
「先輩が、合コンに行くとぼったくられたり、詐欺に遭ったり、変な男の人につきまとわれたりするから、行かないほうがいいって……」
「いやいやいや、それ競争力減らすための虚言だろ。おまえナチュラルに合コン受けよさそうだし」
「ええっ」
店員さんに差し出されたチューハイのグラスをうっかり落としそうになる。
わたしを見て、彼は「アホだけどな」と付け加えた。
「けど、そのつけ入りやすそうなところが……て何言ってんだ俺」
気が付けば桐谷さんは九杯目、わたしは十杯目のグラスを空けていた。
これだったら飲み放題のあるお店にしたほうがよかったかもしれない。
そう思いながら左側を見ると、森崎さんの前に置かれたグラスはまだ二杯目だった。