じゃあなんでキスしたんですか?
腕時計に目をやると、お店に入ったときから三時間が経過していた。
「そろそろ出るか」
わたしの思考と同調したような森崎課長の声に、うなずく。
「ほら、桐谷さん、起きて」
「ああ、俺がやる」
内ポケットの財布からクレジットカードを取り出して店員に渡すと、森崎課長はたこのように茹った桐谷さんの腕を首に回し、椅子から立たせた。
「悪い、桐谷の荷物頼めるか」
「あ、はい。あの、お金……」
「いいよ。今日は初仕事ってことで特別な」
森崎さんの代わりにカードを受け取り、ふたりの後を追って店の外に出る。ほんの少し火照った顔を、夜風が夢の世界から覚醒させるようにやさしくなでていく。
森崎さんは目の前の通りでタクシーを止めると、桐谷さんを押し込んだ。大きな手でドアの上をつかみ、桐谷さんをからだで奥へ押しやるようにしながら、わたしを振り返る。
「小野田の家はどこだ?」
「あ、わたしは亀沢です」
「じゃあ俺たちの先だな。乗ってけよ」
彼の指が前の座席を指差して、わたしは助手席のドアに手をかけた。