じゃあなんでキスしたんですか?
2/Kiss me, please.


2◆

北向きの窓なのに、近づくとじわりと熱を帯びている。
 
七階の窓から見渡す景色は、天上から注ぐ強い光に焼かれて、背の低いビルも民家もところどころに見える緑も、今にも湯気を上げそうだった。

七月に入ってから、太陽は待ってましたとばかりに猛威をふるっている。

「では、次号の読書コーナーはIT部門から一名。担当者の選出と原稿依頼を三橋さん、お願いしていいですか」 

「あいよ」

「メインの納涼祭レポートはわたしが当日カメラを持って回ります。そのほかに各部署から載せておきたい案内事項はありますか?」
 
ホワイトボードにペンを走らせたあと、コの字に置かれた机を見渡すと、各部署からひとりずつ招集された八人の編集部員はそろって首を振った。

わたしは一番近くの椅子に窮屈そうに座っている男性に目を移す。

「編集長、何かありますか?」

「いや、ない」
 
低い声に後押しされるように、ホワイトボードの隅にあるコピーボタンを押した。グググと喉に異物が詰まったような音を出しながら、ボードに書かれた内容が印刷される。

「では、今月の編集会議は以上です。みなさんよろしくお願いします」

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