じゃあなんでキスしたんですか?

 
三人でカウンターに並んでいた記憶はまだ昨日のことのようにわたしの脳裏にとどまっている。

あのとき森崎さんが飲みに付き合ってくれたのは、桐谷さんのスキンシップで混乱状態になったわたしが、半泣きで懇願したせいだろうか。

階段で三階に戻っていく園田先輩と途中まで一緒に下りて六階の扉を開く。

エレベーターホールの四分の一を占領しているガラスの喫煙ブースには誰もいなかった。

ぶーんと低くうなっている自動販売機に百円玉を投入し、ボタンを押す。

赤く塗装された販売機が吐き出した缶コーヒーを取り出し、冷えた缶を手の中でもてあそびながら、ずらりと並んだ飲み物を眺めた。

わたしが選んだコーヒーのとなり、白いデザインの見るからにマイルドそうなアイスカフェラテは、赤く“売り切れ”と光っている。
人気があるみたいだ。
 
そういえばいつだか森崎課長もこれを飲んでたっけ。
 
そのとき、持っていた缶コーヒーを後ろから伸びてきた手に奪い取られた。

「ブラックかよ。色気ねぇ」

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