じゃあなんでキスしたんですか?
最寄駅を調べるためにケータイを操作しながら、地面からのライトに照らされた危なっかしい背中を目で追う。
「大丈夫かなぁ」
気が気じゃなかった。
立っているときはしゃんとして見えたのに、一歩進むごとに右にふらふら、左にふらふら、ちっとも前に進んでいない。
はらはらしながら見つめていると、よろけた森崎さんが立木に思い切りぶつかった。
「あわわ、全然大丈夫じゃない」
急いで駆け寄って、木と見つめあっている彼の腕を取る。
「もう、しっかりしてください」
返事をする代わりに、森崎さんはまた無邪気な笑みを見せる。
うーん、やっぱり酔っ払ってるなぁ。
「ほら、こっちですよ」
三十センチも身長差のある男性を支えられるはずもない。
課長がよろけるたびに一緒になって左右に振られながらも、どうにか転ばずに広いエントランスにたどり着く。
そしてオートロックのボタンパネルの前で立ち止まった。
「暗証番号、いくつだろ……」
「にこにこ」
「え?」
となりから長い指が伸びる。
からだが覚えているのか、森崎さんはためらうことなくボタンを押して扉を開錠した。
なるほど、二、五、二、五、で“にこにこ”なのだ。