じゃあなんでキスしたんですか?
「確か、森崎さんは十二階」
ホテルにあるようなぴかぴかのエレベーターに乗り込むと、びっくりするくらいあっという間に目的の階に着いた。
会社の亀みたいなエレベーターに慣れているせいか、よそで昇降機に乗るとちょっとした感動をおぼえる。
「ほら森崎さん、着きましたよ」
エレベーターホールから伸びる廊下をゆっくりと進み、ドアの前を通り過ぎるたびに表札を確認する。
わたしが『森崎』の文字を確認するよりも早く、森崎さんがドアの前で立ち止まった。
「一二○五……ここですか」
こくりとうなずいて、森崎さんは尻ポケットに手を伸ばす。
取り出した鍵が廊下に落ちて音を立てた。
「あらら」
拾って渡そうとすると、開けて、というように目で鍵穴を指す。
森崎さんの部屋の、鍵。
胸が高鳴るのと同時に、かすかな罪悪感がかすめていった。
部屋ってことは思いきりプライベートな空間であって、本人が酔っ払って理性を失っているあいだに勝手に入ってはいけないような気がする。