風車。
「あ、お前入ってくれたんだぁ。よろしくな!」
木造の軽い挨拶に頷いて、飛鳥は唐草を見ていた。
バレー部に入った事。それを告げれば保護者が狂喜乱舞する事は今更な話だ。
皆がある程度ルールを覚えてきた頃、二軍や一年生組が混合で試合した。
飛鳥は試合メンバーだったが、木造は有名人だったらしく早々に一軍のベンチだったから不参加だった。
その日の部活が終った後、唐草に話し掛けられた。
「湖羽酉くん、だったよね。名前。…中学からなんだっけ」
「あぁ、うん。そう」
「この前、学年模試二位だったよね」
「そう。アンタに負けたんだよ。勉強で負けたのは初めてだった」
「へぇ」
心底面白いと言わんばかりに唐草は笑う。形容しがたい感覚にまた襲われて飛鳥は唐草を見下ろした。
唐草の顔を見てぼんやり思う。今時の女子って正直、化粧でべたべたの露出過多な奴ばっかだと思っていたのに、コイツは違うみたいだ。マネージャーやってるときは、ちょっと格好いいくらいで。
「あはは、面白いね。君なら私の感覚についてけそうな気がする」
「…………あぁ。うん、そうだろうね」
「ねぇ、死ぬ気でやりなよ。私の隣に立ちたいならさ」
本気で来なよ、と少女は笑った。
垢抜けた笑みに覚えたのは、酷いくらいの高揚感。浮き足立つような感覚。
僅かに腕が震えているのは、武者震いと云う奴だろうか。こんなのは初めてだ。
今まで全てを嘗めきって、見下してきた飛鳥。しなくても優位に立っていた飛鳥が初めて下に立たされた。
その相手が隣に来いと言う。面白いじゃないか。やってみたいと思った。
今思えば、これは色恋沙汰の宣戦布告で、抱いた恋心なるものに気付いてすらいなかった飛鳥自身の事を考えれば、彼女は相当な自意識過剰とも考えられる。
多分、唐草にはわかっていたのだろう。飛鳥が自分に対して、その感情を無自覚の内に抱いていた事を。何と云ったって、彼女は頭が良いのである。
"宣戦布告"に対する返事は驚く程すらりと出てきた。面白いじゃないか。やってやろうじゃん。そう言葉を紡いだ自分の口も、笑みを湛えていたような、そんな気がする。