あたしのママの恋の話
 外国人ヒッピーが違法な植物を育てていたり、ジャパゆきさんのタコ部屋になっていたり、不良たちに女子中学生が連続して襲われたり、とかく地元で評判の良くない、古い長屋が捨て置かれているような居住区があった。
 その子はそこに引退した占い師のおばあちゃんと二人暮らし、というもっぱらの噂だった。


 そこはまだ新しい都市で、昔ながらの入母屋造の家と、新しく出来た一戸建ての高級洋風住宅と団地に住む人たちとは、服を見ただけで区別できるくらい違った。
 その三つが学区としては一つで、小学校は一学年が三○クラスもあるマンモス校だった。それなのに、その子には友達なんて一人もいなかったから、あれだけ子どもがいても、クラスの誰も本当のところは知らなかった。


 いつも同じシャツとズボンを着て、髪の毛はぼさぼさ、耳の後は真っ黒、手の爪は切らずに噛んでいたし、朝顔さえちゃんと洗っていないようだった。
 あまりに不潔だったから、クラスの女子はみんな嫌がって、口を利こうともしなかった。男子はみんなバイキンと呼んで遠巻きにして、先生が見ていない隙に交代でお尻に蹴りを入れたりしていた。


 その子はどんなことをされても、反撃することはなく、ただじっと黙って俯いていた。
「あいつ、何考えてるかわからない虫みてえで気持ち悪い」と洋風住宅に住む子で、男子たちのボス格だった大悟は、その子を何かというと目の敵にしていた。



 ――もちろん、そのせいで恐れられていたわけじゃなかった。
< 2 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop