好きになっちゃダメなのに。
なんで、この人は。
この人は、いつもこうなの。
思わず、キュッと唇を噛んだ。
彼の言葉に何も言い返せずに、だけど言われるまま自分だけ教室に戻るのも憚られて、私はただ速水くんの足早な歩調に必死についていっていた。
────速水遥斗(はやみ はると)くん。
私と同じ2年生。
去年は同じクラスで、しかも出席番号が近かったから、席替え前の入学したばかりのころは席も前後だった。
少し癖のある黒髪に、黒い縁の眼鏡。
すらりとした長身で、あまり背の高くない私が彼と話す時にはいつもすごく見上げる形になる。
入学式、新入生代表挨拶をつとめたこの人は、入試から今まで誰にも譲ることなく成績は学年トップだ。
冷めた瞳と、誰にでも遠慮のない言葉。
そんなクールな雰囲気がカッコいいと女子の間では結構人気があることは知っている。
私も、速水くんがカッコいいのは、少しだけわかる。
いつも背筋をしゃんと伸ばして、しっかり『自分』を持っているのは、すごいと思う。
……でも、速水くんのまっすぐすぎる視線も、言葉も、私には、強すぎて。
周りに合わせて、周りから浮かないように、そんなことに必死になっている私のことを、速水くんもきっとよくは思っていない。