好きになっちゃダメなのに。
谷岡さんは、先輩たちの言葉から察するに、どう頑張ったって俺とは全然似ていない。
いつだったか陽が好きだと言っていた「男らしい人」というのは、きっと谷岡さんのことを考えながらの言葉だったのだろうと思った。
「あの、速水くん」
ふいに、不安げな声が俺を呼んだ。
いつの間にか近くに来ていたらしい、晴山さんの声だ。
顔を上げると、眉尻を下げ、胸の前で小さな手を重ねた彼女がいた。
俺が座っているソファは2人掛けで、隣は空いているのに、彼女はそこに座ろうとはせず、俺の目の前というよりは少し斜め前で、立ちすくむようにして俺を見ていた。
先程の声と違(たが)わず、とても不安げな表情と雰囲気をしていて。
それは、俺に対する心配からくるものだと分かる。
この様子だと、きっと彼女も気付いたんだろう。
陽の好意が向けられた相手に。
晴山さんはどこか抜けているところはあるけれど、鈍感な方ではないようだ。
俺よりよほど動揺した様子の晴山さんを見ていたら、思わず小さく笑ってしまった。
「どうして笑うの?」
不安げな表情に微かな怪訝の色を浮かばせて、彼女が首を少しだけ傾げて言う。
「だってさ、……なんであんたがそんな情けない顔してるわけ?」
「……私、情けない顔なんかしてないよ」
「いや、してるから。鏡見てきたら?」
「なっ」