好きになっちゃダメなのに。
「教えていただかなくて結構ですっ!
宿題のことだって、冗談だもん。ちゃんと自分でやります!」
少し距離の空いてしまっていた速水くんのところまで駆け寄って、私は強い口調でそう言った。
私が来たのを見て、再び歩き始めた速水くんの隣に並び、今度は遅れないように私も歩き出す。
「なんだ。優しく教えてあげようと思ったのに」
ククッ、と低く笑った速水くんの横顔に、なぜだか喉がキュッ、と鳴く。
こんなふうに意地悪に笑う速水くんを見るのは、初めてじゃないのに。
廊下の窓から差し込んで私たちを照らす夕日が、彼の黒髪をいつもより柔らかそうに見せた。
「……ぜ、絶対ウソでしょ!速水くんが優しく教えてくれるなんて、想像できない!」
思わず見惚れてしまっていた自分に気付いて、慌てて言葉を押し出して、視線を前に戻す。
「なに、晴山さんは俺が優しくないって言いたいわけ?」
そんな言葉と共に、ふっと隣から向けられた視線には気づいていた。
だけど、どうしてか胸と喉の間のあたりがくすぐったくて、私はそちらに顔を向けることができなかった。