好きになっちゃダメなのに。

***

速水くんの後をついていって、辿り着いたのは音楽準備室だった。

今はほとんど使われていないその部屋は、使い込まれた楽器や譜面が雑然と置いてある。

少し埃っぽいにおいが、どこか懐かしい気持ちにさせた。


日に焼けたクリーム色のカーテンが、速水くんが開けた窓から入ってきた風に煽られて、フワリと揺れる。

夏よりも冬に近づいてきた、ひんやりとした秋の風。


「そういえば、生徒会長に立候補してるもうひとりの人って、生徒会の人じゃないよね?」

不揃いに置いてあった椅子や机を、話しやすいように並べながら、そんなことを聞いた。

さっき、名簿に書いてあった生徒会に立候補する人たちの名前は、ほとんどが知っている名前で、それは前期にも生徒会をしていた人たちばかりだったから。

だけど意外にも、生徒会長に立候補していた、もう一人の名前を見ても、いまいちピンとこなかった。

同じクラスになったことがないと、たとえ同じ学年の生徒でも、あまり交友関係が広くない私には、名前と顔すら一致しない人が結構いる。

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