好きになっちゃダメなのに。
「……」
何も言えないまま時間だけが進んでいき、やがてHRの開始を告げるチャイムが鳴った。
……行かなきゃ、って。
分かってるのに────。
「あー、……ムカつく」
厳しい顔をしたままの速水くんが、ぽつり、そんな言葉を零した。
……むかつく?
「はい?」
え。
いきなり何?
ムカつくって、私に言ってるの?
って、ここには私と速水くんしかいないんだから、そうに決まってるよね。
もちろん速水くんに好かれてるなんて思いあがったりはしていないけど、わざわざそんな刺々(とげとげ)しい言葉をかけられるほど嫌われているとも思っていなかった。
……そりゃあ、前までは、私だって速水くんのことが苦手だったし、速水くんだってきっと私のことを良くは思ってないんだろうなって、思ってたよ。
でも、最近は一緒にいる時間も増えて。
冷たいだけだと思っていた速水くんが実は優しい人だっていうことも知って。
志賀先輩を想う速水くんは本当にまっすぐで、私もこんなふうに想われてみたいな、なんて思ってしまうほどで。