好きになっちゃダメなのに。
こんなときにそんな冗談言う!?
思わず言い返そうとしたら、シッ、と速水くんは唇の前に人差し指を立てて私の言葉を遮ってしまう。
ガタ、と椅子を引く控えめな音がしてそちらを見ると、一緒に出番を待っていた須谷くんと志賀先輩が立ちあがったところだった。
どうやら、もうふたりの出番らしい。
「じゃあ、先に行くね」
私と比べ物にならないくらい余裕たっぷりの志賀先輩の笑顔に、私はこくりと頷くことしかできなかった。
志賀先輩に負けないように頑張ろう、って思ったのに。
やっぱり全然勝てる気がしないよ……。
堂々とした志賀先輩に比べ、私は緊張で声が震えないか心配で心配でしょうがないレベル。
相手にならないよね、こんなんじゃ。
分かっていても、やっぱりヘコむ。