好きになっちゃダメなのに。

「頑張ろうね!」


私の頭じゃ、こんなありきたりな言葉しか思いつかないけど。

それでも、速水くんは力強く頷いてくれて。

それだけのことがなんだかとても嬉しくて、励ますつもりが私の方が励まされてしまった。


ステージに向かって方向転換をした速水くんは、もう振り返ることなく歩きだした。

私は迷いのない速水くんの背中を頼もしく思いながら、ついていく。


────タン、と足音が響く。

視界が急に明るくなる。

少しのざわめきが耳に届く。


速水くんに倣って立ち止まり、身体を向きを変えた瞬間。

視界に飛び込んできたのは、ずらりと並んでこちらを見る、たくさんの生徒。


こちらに向いたたくさんの視線に圧倒されてしまいそうになったけど、ちらりと隣を見れば、まっすぐに前を見た速水くんの綺麗な横顔が見えて。

その凛とした姿に、私は不思議と心が落ち着いていくのを感じた。

高まりすぎた鼓動は少しずつ、ほどよい緊張感に変わっていく。

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