好きになっちゃダメなのに。
ゆっくりと一度、目を閉じた。
小さく息を吐きだして、そして目を開けると同時に、大きく息を吸う。
再び見えた体育館の景色はさっきよりずっと、はっきりとした色をしているように見えた。
……ああ、大丈夫だ。
私、思ったよりずっと落ち着いてここに立つことができている。
「──速水遥斗くんの推薦人の、晴山明李です」
吸い込んだ息を全部吐き出すくらいの気持ちで名乗ったその声は、自分でも意外なくらいまっすぐに体育館の空気を震わせて。
ちゃんと、みんなの耳に届いたって、分かった。
それが、なんだか嬉しくて。
私が心から応援している速水くんことをみんなに聞いてもらえるんだと思ったら、すごく幸せな気持ちになって。
練習したセリフは、スラスラとなめらかに声になった。
短い紹介文だけど、頑張って考えた言葉たち。
「……上出来だね」
私の番が終わって速水くんにマイクを渡すとき、そんな声が聞こえた。
びっくりして顔を上げれば、一瞬だけだけど、速水くんが小さく笑ったのが見えて。