好きになっちゃダメなのに。

渡された記章を思わず握り締めると、それを了承と受け取ったらしい速水くんは、安心したように笑う。

そして。


「じゃあ次、晴山さんの番だよ」

そう言うと、私が記章を持つのとは逆の手に可愛らしい花束を握らせて、背中を押してくる。


ハッとして周りを見れば、いつの間にか私たちに集まっていた視線。


「え……っ」


「ホラ、晴山さん。さっき素敵、って言ってたじゃん。自分もできるよ。よかったね」


ニコッと笑った速水くんに、私はなんだか恨めしい気持ちになったけど、とてもじゃないけど反抗できる雰囲気じゃない。


私は小さく息を吐いて、覚悟を決めた。

前に進む、────新しい場所へ飛び込む、覚悟。


「1年間、おつかれさまでした」


今の副会長のところへと歩みを進め、速水くんから託された花束を渡す。

すると、先輩は「サンキュ」と笑顔を見せてくれた。


「慣れないことも多くて大変だろうけど、頑張れよ」


そんな優しく力強い言葉に嬉しくなりながら、大きく頷く。
< 271 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop