好きになっちゃダメなのに。
……でも、そっか。
志賀先輩が須谷くんの隣にいたように、今までも大事なものを自然に横取りされてきたのなら、速水くんが須谷くんとの友情を面倒くさいと思ってしまうのも仕方ないのかもしれない、と思った。
一緒にいても、そんなのつらいだけだよ。
「速水くんは……、どうして須谷くんを副会長に指名したの?」
急に仲良くなりたくなった、とかそういうことでもないだろうし。
どういう心境の変化なんだろう。
首を傾げてたずねると、速水くんは少しためらうように視線をさまよわせた後、やがて視線を合わせて口を開く。
「……須谷を避けていたのは、もちろん、これ以上大事なものをとられることが怖かったから。
須谷は俺がどんなに欲しがっても手に入らないものをもう持っているのに、それに気付いていないことに腹が立ったから」
速水くんの言葉に、私はその真意を聞かずともわかってしまった。
────速水くんが持っていなくて、須谷くんが持っているもの。
だけど、それはとても当たり前のものだから、本人はそれを特別なものだなんて思っていない。
今まで、速水くんは自分にとても自信があって、誰かを羨むことなんてない人なのだと思っていた。
だけど、そんなことないってわかったから。
速水くんは大人で強い人だけど、そんな自分の全部を好きなわけじゃなくて。
自分と誰かを比べて落ち込んだり、卑屈になったりもするんだってこと。