好きになっちゃダメなのに。
「今日、なんでこんなに人多いんだよ」
するりと上手く人の流れをかわして簡単に私のところに歩いてきた速水くんは、チッ、と舌打ちでもしそうに不機嫌な顔でそう言った。
「私に言われても」
私だって、こんなに混んでるなんて思ってなかった。
「まぁ、混んでるのは仕方ないにしても。これくらいちゃんとついてきてくれないと困るんだけど。とりあえず建物の中に入りたい」
「ごめんね……。私、人混み歩くのへたくそなんだ」
「上手いとか下手とかあんの?これ」
ちょっと驚いたような顔をした速水くんに、私は困ったように笑ってみせた。
「セールとか行くと、絶対友達とはぐれるんだよね」
「……いらない特技持ってんだね」
ふ、と小さく呆れたような笑みを落として、速水くんは再び前を見た。
「迷子にだけはなるなよ。面倒だから」
「うん、頑張る」
今度こそはぐれないようにと、私も気合いを入れて速水くんの半歩後ろを歩き出す。