好きになっちゃダメなのに。

「……飲み物くらい奢(おご)る。結構な時間付き合わせちゃったし」

「え」


『どこに行きたいか』という質問への私の返事を聞く前に、速水くんはくるりと私に背中を向けて歩き出してしまった。

慌ててその後ろを付いていくけど、……質問しておいて返事はきかないの?


「あの、気にしないで?奢るとかそんな……。私も選ぶの楽しかったから」


少し前を歩く速水くんにそう言うと、彼は歩くペースを少し落として、ちらりと私を見た。


「俺の気が済まないの。4階にカフェあったよね。そこでいい?」

「私、喉乾いてないしほんとにだいじょ」

「俺は喉カラカラだから、最後にちょっと付き合って」

「……っ」


“大丈夫”という私の言葉を遮って、有無を言わさぬ口調できっぱりそう言った速水くんは、もうすたすたと歩くスピードを速めてしまったから、私はなにも言い返せずに付いていくしかない。


……そして。


「……ありがとう」


辿り着いた、若い人たちでにぎわうカフェ。

差し出された、クリームがたっぷり乗ったアイスココアは、速水くんが買ってくれたものだ。

結局、奢ってもらうことになってしまった。

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