好きになっちゃダメなのに。
頷いて、触れた髪をひとつにまとめた。
片手に束ねた髪を持って、正面から彼女の覗き込んでみる。
「……」
いつもは、ふわふわの髪が顔の輪郭を縁取っているから。
首元を隠しているから。
髪を上げた晴山さんは、がらりと印象が変わった。
「あの、速水くん。何してるの?」
「……あ、ごめん」
気付いたら、必要以上に長い間、彼女の顔を眺めてしまっていた。
パッ、と髪から手を離すと、彼女の髪がふわっと広がった。
不思議そうな顔をして、晴山さんは手櫛(てぐし)で簡単に髪を整えると、「速水くんの行動って、本当に予測不能だよ」としみじみといった様子で呟く。
そしてふいにポケットからスマホを取り出して、一度サイドボタンを押したのが見えた。
時間を確認したらしい晴山さんは、少し困ったような顔になって、しかしすぐにぱっと顔を上げる。