恋して狼!~狼たちと籠の鳥~
最後に涼牙さんのところに行った。
「あの・・・」
「なぁに?」
「おにぎり食べません?」
「今はいらないわ」
涼牙さんと視線をあわせようとしたがすぐにそれてしまう。
「じゃあ失礼しますね」
私は笑顔でそういうとカウンターに戻っておにぎりを食べ始めた。
1人だと味気ないなぁ本当は美味しいはずなのに。
「これもよかったら食べなよ」
見れば真さんが小鉢をさしだしてくれていた。
「筑前煮ですね」
「弁当の残りなんだけど
朝作ったやつだから1人暮らしなのに大量に造りすぎちゃってさ、ここにもタッパーで持ってきたんだけどね」
「お弁当?」
「俺、大学生なの」
「そうだったんですね」
私は一口、筑前煮を食べてあまりの美味しさにびっくりした。
「不味い?味濃かった?」
「いえあまりに美味しいので」
「マジ?嬉しいんだけど」
「真さんって料理上手なんですね」
「実家が料亭だから」
「ちょっと待ってて」
「はい」
箸を進めて待っていると今度は椀が置かれた。
一口すすればすごく元気がでた。
「美味しい、お味噌汁なんて久しぶりです」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
「真、ボトル」
横にいたのは涼牙さんだ。
「もう開いたんですか?」
聞けばさっき渡したばかりだと言う。
「まあな」
「木戸さん少し抑えたほうがいいっすよ」
バーカウンターに入っていくなりボトルを取ろうとした手が滑り涼牙さんが床に膝をついた。
「涼牙さん」
「木戸さん」
「騒ぐな」
ふらりと立ちあがるが具合はよくなさそうだ。
「涼牙さん」
「うるさいんだよおまえ」
「関係ないとか言わないでください
お節介でもかまいません
心配なんです
心配したらダメなんですか」
弱味を握られたくないのか頼りたくないのか涼牙さんは荒い呼吸を整えようとしながら言う。
「おまえなんなんだよ
寝ても醒めても俺の前に現れやがって」
「人を幽霊みたいに言わないでください」
「似たようなもんだろお節介」
店長が慌ててかけてきて涼牙さんに薬を手渡した。
「もう話してもいいんじゃない涼牙
ムリしてこれ以上悪化させるつもり?
そしたら君はもっと色々な物を失うんだよ」
「ほっとけばいいんだよ」
「話してくださいちゃんと」
涼牙さんは薬をシンクに投げ捨て横をすり抜けて二階にあがってしまった。
「これは涼牙が言うべきことだから僕からは言えない」
「涼牙さん病気なんですね」
「うんまぁね」
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