恋して狼!~狼たちと籠の鳥~
「ヤダかんな、ぜってぇてめぇの口から言わせてやる
あいつの前で泣かせて悪かったって俺が謝らせてやる」
「おまえにはできねぇよ」
涼牙がふっと笑った気がして俺もつられた。
「とりあえず早く治せ俺がつまらないだろ」
涼牙が拳を突き出してきたので俺も拳を突き出した
とんと触れて互いにふっと笑う。
昔ならこんなことあり得なかった。
涼牙の腕がだらりと垂れ心拍計が急激に下がる。
俺は急いでナースコールを押した。
慌ただしい中で私はただ茫然と待つことしかできなかった
なんでこんなに苦しいんだろう
出会ったばかりでお互いにあまり知らないのに
まだ私、涼牙さんに好きって・・・大好きって言ってない。
「私・・・」
「大丈夫、俺がついてる」
まるで恋人どうしのように病室前の廊下で私は隼斗さんに抱きついた。
「いい加減、負けを認めろ」
隼斗さんの言葉が胸に突き刺さる。
私は涼牙さんのために隼斗さんまで利用してる?
私って狡い・・・
「認めません・・・」
涼牙さんの言うようにいちばんずるいのは私だ・・・
もうイヤだこんなに苦しいの・・・
僅か数分のことが倍の何時間にも感じた。
病室から医師が出てきて言った言葉は私の耳にはあまりはいらなかった。
「容態は安定しましたがしばらくは予断を許さないでしょう」
それって涼牙さんがいなくなっちゃうってこと?
「ったくおまえがしっかりしなくてどうすんだよ」
隼斗さんが横で言う。
「そうですけど・・・」
「俺は店があるからそろそろ帰るけどおまえはどうする?」
「しばらくここにいます」
「1人で大丈夫なのか?」
本当はダメだけど甘えてはいられない
だから私は頷いた。
私は隼斗さんと別れ病室に入った。
静かすぎる病室
「涼牙さん・・・」
私は涼牙さんの手を握りながらそっと呟いた。
返事はないけどとどいてるよね
「涼牙さん大好きです」
やっと素直に言葉にできた。
こんな状況でなければキスのご褒美があったかもしれない、笑いとばしてくれたかもしれない。
涙が自然に溢れてくる・・・
「っ・・・」
僅かに指先が動いて私は安堵する。
「涼牙さん」
「煩いんだよおまえ」
うっすらと目を開けて私に言う。
「涼牙さん」
「何度も呼ぶな」
「呼んでませんよ」
じゃああの温かな光りの中で俺を呼んだのは・・・やっぱりあの人だったのだろうか。
記憶の片隅にある母親
こいつに母親を重ねるのはムリあるか
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