Love Game
目についたカフェに入り軽く食べて、また街をそぞろ歩く。
これと言って目的もなく気になったお店を見たりして
「何か買うものとかある?」
「ううん、これと言って何もない。漣は?」
歩き疲れたのでまたカフェに入り甘いチョコレートを飲みながら
「ん、俺も特にないな」
漣はブラックコーヒー。
「あ、そうだ、漣に聞きたいことが」
「ん?」
「漣、フランス語話せるの?」
お昼を食べたカフェも此所でも何の問題もなくフランス語で注文していた。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「何を?」
「俺、親父の仕事の関係で小中とフランス」
「…えっ?」
『小中フランス』って…
「帰国子女?」
「女じゃないけど、ま、帰国子女。だいぶ忘れてるけど日常生活に困らないくらいは。あ、英語も同じ」
「は、はぁ」
驚きすぎて開いた口が塞がらない。
「瑞希?」
「私、前にも言ったけど漣のこと何にも知らないね」
「……」
「知ってるのは本名が『秋篠漣』で今年の春に大学を卒業してサッカーが好きだってことくらいかも。ファン以下だね」
「不安?」
漣がコーヒーカップを置いて私の顔を覗き込む。
「ううん。不安じゃない。ただ」
「ただ?」
「寂しい」
「寂しい?」
「うん。みんなが知ってる漣のバックボーンを私だけが知らないのは」
「それはお互い様」
「えっ?」
「俺も瑞希のことを…どんな子ども時代を過ごしたかとか何の学科が得意だったかなんて知らない」
「うん」
「だから前にも言ったように、これからいっぱい話しをしよう。 時間は幾らでもあるんだから。な」
「う、うん、そうだね」
コーヒーを飲み干し
「じゃあ、ぼちぼち戻るか?晩飯はゆっくりしたいからルームサービスでいいよな?」
「うん。あ、いっけない」
「どうした?」
「まだ折原さんにお断りの連絡入れてなかった」
「早く連絡しろよ。本当に肝心なとこで抜けてるんだな」
「悪かったわね」
「いや、そこが可愛い」
「…電話してくる」
しれっと『可愛い』なんて言われるから恥ずかしいったらありゃしない。
電話にかこつけて席を離れると
「クククク…」
漣の肩が揺れていた。