㈱恋人屋 TWICE!
「…聞きましたよ。」
「何をですか?」
「恋人屋…倒産してしまうんですよね。」

そんなこと、とっくの昔に報道されている話だ。

「残念です。」
「えっ?」

龍馬さんが反対派だという印象が強かったのか、その言葉は意外なものとして聞こえた。

「…今にして思えば、僕はとんでもない思い違いをしていました。」
「どういうことですか…?」
「恋人師の資格化計画の話が出た時、僕は反対運動を起こしたんです。政府が風俗を認めていいのか、って。」
「当時は多かったみたいですね、そういう風に考えてる方も。」
「ええ。よくご存じですね。」

日曜日の公園には、穏やかな街の風景を取り入れた風が緩やかに吹いていた。

「僕、当時付き合っていた人がいたんです。もう事実婚状態で、同棲もしていました。お互いに仕事も見つけていたのですが、あの計画が発表された時、彼女が『恋人師になりたい』って言いだしたんです。僕はもちろん止めました。自分の彼女を風俗嬢になんかしたくないって、そういう思いが強かったんです。それでも彼女は恋人師志望を貫き通して、結局彼女とは別れる羽目になってしまいました。…そこで何かが吹っ切れたんでしょうか、僕は反対運動を起こしました。」

話を聞きながら、私はここにいることが大変後ろめたく思えてしまった。

たった一組の、されど一組の幸せな二人の仲を壊してしまった職業に、私が就いている。

しかも、壊された張本人が隣にいて、私と話している。

…許されるのならば、すぐにここを立ち去りたかった。

「…だけど、紗姫さんと話して気づきました。彼女の夢を、応援してあげるべきだったんだって。」

だからこそ、その後に少し哀しげにつぶやかれたこの言葉が、救いとして感じられた。
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