㈱恋人屋 TWICE!
菜月くんの怪我が完治する頃には、私はお腹に重みを感じ始めていた。

「ただいま~。」

ドアが開く音と同時に、今朝ぶりの声が聞こえる。

「おかえり~。ご飯にする? お風呂にする?」
「…それ、いつの時代だよ…。」
「だって、ご飯も作ってあるし、お風呂も沸いてるし…。」

ようやく落ち着いた新婚生活を取り戻せたから、言ってみたかったというのもある。

恋人屋はあの一件により予定より早く倒産し、私達は職を失った。しかし菜月くんは恋人師としての資格を生かし、新しい恋人師業界の会社に入社した。

「で、どっちにするの?」

ネクタイを外す菜月くんに近づき、上目づかいで尋ねる。

「じゃあ、冷めないうちにご飯を頂きますか。」
「うん。」

お皿にカレーを盛り付け、テーブルの上に置く。

「七味、かけるんだっけ?」
「七味じゃなくてタバスコ。」
「あ、ゴメ~ン。」

結婚してから気づいたのだが、辛いものが苦手な私が作るカレーには辛さが足りないらしく、菜月くんはよくカレーにタバスコをかけるのだ。

「頂きま~す。」

でも、私にはこれくらいで十分だ。

「ねぇ。」
「ん?」
「食べ終わったら、部屋の片づけしない? ベビーベッドとか買わないとだから。」
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