㈱恋人屋 TWICE!
「そのナイフを持っていた人は、あちらの女性で間違いないですか?」

郷湾さんは私の方に向かって手を伸ばした。

「はい。」
「その時の彼女の様子は?」
「呆然とその場に立っていました。」
「このことから、彼女は人を殺してしまったことに呆然となり立ち尽くしていたところを目撃されたと考えることができます。以上です。」
「裁判長。」

とっさに法立さんが席を立つ。

「この証人の証言には信憑性がないように思われます。こちらの資料をご覧ください。」

薄い紙束を配りながら法立さんは言った。

「これは証人が原告側の検事に会いに行った時に身分証明書として用意していたパスポートですが、よく見ると『宇東慶子(ウトウ・ケイコ)』の『慶』の字が少し違います。これは普段『慶』の字を書きなれていない証拠です。」
「あ、その、これはたまたま間違えただけで…。」

途端に焦り出す宇東さん。

「さらにもう一つ。証人の前科を調べたところ、証人は過去にも嘘の証言をしたとして罰則を科せられたことが何度もあります。」

こうして…。

「主文。被告人を無罪とする。」

判決が言い渡され、私は無事、自由の身となった。

「よかった…。」

裁判所を出て、腕を伸ばす。五月の風が、私の髪を淡くなびかせた。

「紗姫さん。」

振り返ると、そこには法立さんと、真守さんがいた。
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