㈱恋人屋 TWICE!
二人とも、私のことを気遣ってくれているんだろう。それが不器用に、だけど素直ににじみ出ている。

それは、不器用なだけ痛いほど分かる。

なのに…その気持ちを、素直に受け取れない。

気になる、という感情の方が強く出てしまう。

「どうかしました?」

思いつめているような表情になっているのだろう。私は、欲求を押し殺すので精いっぱいだった。

「…じゃあ、今のは忘れて下さい。」

そんなこと言われても…無理だ。今の私には…。

「ほら、前見て下さい。旦那さん、来てますよ。」
「あ…。」

菜月くんがいた。

「紗姫…。」
「菜月くんっ…!」

久しぶりに菜月くんの顔を見た安心感から、私は菜月くんの方へ駆け寄り、そのまま抱きしめた。

「ゴメンね…。」
「ははっ、全くだな。」

私の背中にまわされた菜月くんの手から、柔らかな体温が感じられた。

「ねぇ…。」
「ん?」
「菜月くんは、私に秘密なんてないよね…?」

菜月くんは表情を変えずに言った。

「いきなり何だよ? そんなの、あるわけないだろ。」
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