㈱恋人屋 TWICE!
仕村が戻って来たのは、夜になってからだった。仕村の声が玄関で聞こえた気がしたので向かってみると、ドア、というよりもはや門の隙間から、淡い月光が揺り差していた。

「ただいま戻りました、紗姫様。」
「結構時間かかったのね。」
「はい。かなりの広範囲まで情報が知れ渡っておりましたので、かん口令を敷くまでに時間がかかってしまいました。」
「…今、さらっとスゴいこと言ったよね…。」
「と、言いますと?」
「かん口令とか…敷けるの?」
「造作もないことでございます。」
「…。」

あっさりと言われてしまい、閉口した。どうやら、仕村は私とは少しばかり違う次元にいるらしい…。

「紗姫様。」
「どうしたの?」
「お疲れのご様子なので、そろそろお休みになられてはいかがでしょうか?」
「そうね…。」

確かに、今日は色んな意味で疲れた。ここを見て回るのもそうだし、そもそも慣れない場所にいるだけで結構疲れてくる。

「では、お休みなさいませ。」

キングサイズのベッドに私が横になると、仕村は一礼してからドアを閉め、電気を消した。

「ふぅ…。」

だが、眠たくはなかった。

「…本当に疲れてるのって、仕村の方じゃん…。」

独り言をつぶやきながら窓を眺めると、電気が点いている時は暗黒にも等しかった空が、星や月で彩られているのが目に入った。こうやって安心してベッドにいられるのも、仕村がかん口令を敷いてくれたからなんだよね…。
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