㈱恋人屋 TWICE!
シンとした音が聞こえた気がする。

「あくまでも僕の推測なんですが、鯉ヶ島氏は菜月さん…いえ、新海家を恋人屋から追放しようとしている可能性があると思われます。」
「追放…?」
「ええ。もうこれ以上、自分の素姓を暴かれたくないんでしょう。」
「でも、どうしてこんなこと…。」
「氷室さん、確か怪我の様子をご覧になっているんですよね?」
「…気絶はするが、死にはしない。意識も戻る。その絶妙なラインの傷でした…。」
「つまり、鯉ヶ島氏は菜月さんを殺害するつもりはなかったんです。あえて生き残るように、しかし手術は必要な程度の傷を残したものと思われます。」

後ろのドアが開く。中から医者の先生が出てくる。

「先生、菜月は…?」
「命に別条はありません。このまま安静にしていれば治ります。」

安堵のため息が病院の廊下に対流する。

「でも、どうしてそんなこと…。」
「そんなところまではまだ分かりません。これから調べて行く必要があります。では、僕はこれで。」

真守さんは一礼すると、急ぎ足で外へと向かった。

「…。」

菜月くんに会わせる顔がなかった。菜月くんは、私のせいで怪我をしたのだから。

私はそのまま家に帰り、一人、泣いた。

翌日、お義父さんから電話があった。

「もしもし…。」
「菜月と、会わないの?」
「…だって…。」

手にはすでにハンカチを持っておいた。
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