【短編】 お見合い相手は高校生?!
「あら、翔ちゃん」
「こんにちは、詩織さん」
馴染みな店だから店長とも仲がいい。
ここは、イチノセホールディングが経営する店だ。
ここの店長は、女性だが口が固いし、余計なことを言わないので彼女を連れてきても大丈夫だと思ったのだ。
ちなみに、店員は、俺がイチノセホールディングの社長の息子だと知らない。
彼女は、俺の後ろに隠れるように立っていた。
「どうしたの?デート?」
「いや、そうじゃないんだけど。
ちょっと、彼女にテキトーな服を見繕ってくれる?遊園地に行くからそれっぽく」
「やっぱり、デートなんじゃない」
ニヤニヤしながら怪しげな視線を向けるのも無視し、「行っておいで」と遥に声を掛けた。
試着室から出てきた遥は、雰囲気とは全く別人になっていた。
カジュアルなデニムパンツをロールアップし、トップスもさっき着ていたピンクより濃いサーモンピンクになっていた。
カジュアルなのだが、やはりどこか清楚な雰囲気を醸し出しているところは、さすがお嬢様という感じだ。
そわそわしながら自分の姿を鏡で見ている彼女に「似合ってるじゃん」と鏡越しに褒めると、彼女は、真っ赤な顔をしていた。
「じゃあ、詩織さん、これ一式お願い」
俺が言うと、詩織さんは手際よく、服についているタグを取ってくれた。
その隙にレジで会計を済ませた。
「じゃあ、行こうか」
「いや、お洋服代を…」
財布を手に彼女は俺に近づいてきたが、
「いいよ、プレゼントしてあげる」
と笑顔で言い、そのまま店を出た。
パタパタと後ろから足音が聞こえてきたので、彼女がついてきているのがわかった。
「すみません・・・こんなお洋服まで・・・」
背後から申し訳なさそうに言う彼女に俺は振り返りひとつだけ注文をつけた。
「服をプレゼントした代わりに約束して」
彼女の目は泳いでいた。
おそらく、とんでもない要求をされると思っているのだろう。
「二度と、私を連れて逃げてなんて言うな。
世の中には悪い男なんて山のようにいるんだからな!わかったか?」
俺の要求が、自分が思っていたものと違ったので、呆気にとられているようだった。
「返事は?」
俺が返事を促すと、「はい、わかりました」と素直に答えてくれた。