【完結】無口な王子様
******
「はじめまして。橋本 奈緒です」
笑顔で橋本さんが俺の前に座った。
「梶原くん、ハンバーグを頼んだんやぁ。じゃあ、私は・・・明太子スパゲティーにしよっ」
嬉しそうにメニューを眺めている。
橋本さんが俺の前に座って、10分。
何も話していない。
絶対につまらないって思っているやろうなぁ。
俺だって、話をしたいんやで。
目の前の女の子は、かわいいし、こんな子が彼女になってくれたら・・・・とも思った。
でも、何て話し掛けたらいいものか・・・・。
俺がそんなことを考えながら飯を食っていたら、
「橋本さん、ごめんね。こいつ、かなりの人見知りやねん」
木下がやって来た。
「おいっ、余計な事言うなよ・・・」
「ホンマのことやん!」
確かに、否定はできない。
「でも橋本さん、こいつめっちゃいい奴やから、長い目で見てやってよ」
「う、うん」
橋本さんは困った様子だったが、嫌とは言わなかった。
それだけが救いだった。
『長い目で見てやってよ。』って・・・・俺に付き合ってくれる程、気の長い奴なんてお前らくらいやぞ?
「梶原くんは、何か部活入ってるの?」
何も話さない俺に、痺れを切らした橋本さんが突然聞いて来た。
えっ?
いきなり何?
突然の質問に答えようと、俺は口の中のハンバーグを飲み込もうと必死になった。
「プッ」
目の前の橋本さんが、なぜか吹き出して、笑顔になっている。
「・・・よかった。笑ってくれた」
心の中で言ったつもりが、口に出していた。
俺の言葉に彼女は、恥ずかしそうに俯いた。
その仕草が、また可愛らしかった。
「俺、話すのあまり得意じゃないから・・・楽しくないよね」
「えっ・・・そんなことないよ」
「橋本さんは優しいんやね」
俺がかわいそうやと思ってくれたんだろうな。
この沈黙さえも苦に思っていないものも俺だけなんやろうなぁ。
「そんな・・・梶原くんこそ楽しくないでしょ?」
俺、そんなにつまらなそうにしてる?
「いや。橋本さんがおいしそうに食べる姿を見てるの楽しかったよ」
俺、何言ってるんやろう。
でも本当のこと。
彼女は顔に似合わず、豪快に食べる・・・・・そう言うと聞こえが悪いが、少しずつ口に入れて上品ぶって食べるより、よっぽっどいい。
それに、食べた後の幸せそうな顔を見たら、こっちまで幸せになるような錯覚に陥る。
「えっ??」
まただ。真っ赤になって俯く姿がかわいい。
俺、この子ともう少し話したいかも・・・・・。
その日は帰りに、携帯番号とアドレスを交換して、別れた。
彼女と別れてからも彼女の笑顔が頭から離れなかった。