私の師匠は沖田総司です【上】
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屯所から出た私は、10番隊の隊士に気付かれないように後を追っていました。

絶妙な距離を保ちながら後ろを着いて行くのは難しい。

遠すぎたら見失ってしまうし、近過ぎたら気付かれる。

おまけに隊士の人は周りを警戒してか、よく辺りを見回す。その度に家の影に隠れなければなりません。

なかなかスリル満点なゲームですね。

この状況を楽しんでいる自分にちょっと驚きです。

家の影からそっと顔を出す。すると、雲が割れて満月の青い光が辺りを照らしました。

灯を持っていませんでしたから、この月光はありがたいですね。おかげで隊士の姿がハッキリ見えます。

それからしばらく、月の明かりを頼りに隊士の追跡を続けました。

そして、隊士は屯所から少し離れた場所で足を止め、辺りをしきりに見渡し始めました。

さっきまでとは違う様子に、この辺りで何かがあるのだと直感しました。

もう少し近くに行きたい。

そう思った私は、気付かれない様に距離を詰めました。

物陰で身を隠しながら外を覗いてみると、男が一人増えていました。

「それで、約束の物は?」

男が隊士に話し掛けます。それから、隊士は手紙を取り出しました。

「これに新選組内部の情報が書かれている」

隊士の言葉に私は声が出そうになりました。けれど、手で口を押えることにより声が漏れるのを防ぎました。
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