私の師匠は沖田総司です【上】
心臓が激しく脈打っている。私は心臓を落ち着かせるために、一つ息を吸って吐いた。

もう一度、物陰から二人を覗き見ました。

「よくこれだけ調べられたな」

「かなり苦労したよ。あそこには監察方の山崎って奴がいて、常に目を光らせているからな。おまけに、副長の土方歳三も相当の切れ者だ。

奴らの目を盗むのは本当に大変だったよ」

「そうか。本当に苦労を掛けたな」

息を潜めて二人の会話に聞き耳を立てます。無意識に手が拳を作ります。

まさか、新選組にスパイが入り込んでいたとは、信じられませんでした。

そして、私が密会の目撃者となっているということも。

後先考えず、直感だけで行動してしまったことを後悔してしまう。

相手は二人に対し、私は一人だけ。

それに、相手も刀を持っている。命を賭けた戦いになるのは避けられない。

だからと言って、新選組の情報が漏れようとしている今、二人を見逃す訳にはいかない。

近くにいる私が、それを阻止しなければなりません。

私は師匠の刀をギュッと握り、様子を伺います。

このまま飛び出せば、一人を相手にしている内に、もう一人に逃げられる可能性があります。

それか二対一で戦う可能性も大いにある。

ですが、例え、二対一であっても剣術には負けない自信はあります。

……しかし、平和な時代で生きていた私は人を斬ったことがない。

相手の骨肉を断つ感触を直接手に伝え、命の重みを覚えさせるのが刀という武器。

この時代に来た時からには、経験するであろう出来事。

自分の手で相手の命を奪うという事。

いざ、それが目前に迫っていると思うと、足や手が震えてしまう。
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