私の師匠は沖田総司です【上】
歩くたびに草を踏みしめる音がする。

そして、数歩進むと青年が少しだけ私の方を見ました。

でも、青年はすぐに目を逸らして、また遠くを見てしまう。

私に姿に気付かなかったのかな、と思いながら青年の近くまで歩きます。

そして手を伸ばせば届く距離まで来ました。でも、青年は私の方に目を向けません。

「ねえ」

『……』

声を掛けますが、青年は目を合わせません。まるで私の存在が見えていないようでした。

「ねえねえ」

『……』

「ねーってば!」

私は反応がない青年の顔に、ロリポップを押し付けました。

青年の頬にロリポップがめり込みます。

今考えると、どうして私はこの時、青年の顔にロリポップを押し付けたのか分かりません。

たぶん、無視されて腹が立ったんだと思います。

でも、そのおかげで青年は私の方を見ました。

信じられないというように、目を大きく開いて。

『僕が……見えるの?』

これが青年の初めての言葉でした。

私はニコッと笑うと

「お兄ちゃんのこと見えるよ。ずっとあそこの窓からお兄ちゃんを見てたんだ。

飴ちゃん持って来たの。一緒に食べよう。甘くて美味しいよ」

私は青年にロリポップを差し出しました。

でも、青年はロリポップではなく私の顔に手を伸ばしました。
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