私の師匠は沖田総司です【上】
それから私は病室を抜け出しては、お菓子を持って青年の所へ行きました。

桜の木の下で青年とお菓子を食べる。

これが私の毎日の楽しみになっていたのです。

「お兄ちゃん!」

『蒼蝶!また来てくれたんだね!』

その頃の私は、青年のことをお兄ちゃんと呼んでいました。

お兄ちゃんは私が来るとギュッと抱きしめてくれます。

お兄ちゃんの身体はいつも冷たかったけど、抱きしめられるのが大好きだったのを覚えています。

「今日はね、クッキー持って来たんだよ」

『いつもありがとう。さっ、ここにおいで』

「うん」

私はいそいそとお兄ちゃんの胡坐の間に座りました。

お兄ちゃんの胡坐の間に座る。これも私の楽しみの一つでした。

『昨日どこまで話したっけ』

「うーんと、鬼さんが道場にインチキお薬を売りに来たってところだよ」

『ああ、土方さんが試衛館に石田散薬を売りに来たところか』

お兄ちゃんはよく生きていた頃の話をしてくれました。

最初、お兄ちゃんが幽霊だと知った時は驚きましたが、日を追うごとにそのことも気にならなくなりました。

むしろ、どうして他の人には兄ちゃんの姿が見えないのか、謎が解けてよかったです。

『土方さんはね、鬼とか言われてたけど、俳句を書くのが趣味だったんだよ』

「へー、そうなんだぁ!」

私はいつもほっぺを赤くしながら、夢中になってお兄ちゃんの話を聞いていました。

話が面白かったのもですが、それよりも話をするお兄ちゃんの顔が生き生きとしていて、その顔を見るのが大好きだったんです。
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