私の師匠は沖田総司です【上】
「そっか……」

組長が黙ってしまいました。けど、視線はチラチラとこちらに向けたり、逸らしたりしています。

どうしたんでしょう。私に何か言いたいことでもあるんでしょうか?

聞いてみたいですが、組長が話すまで気付かない振りをすることにします。

しばらくして組長が小さな声で言いました。

「あのさ、天宮さん」

「はい」

「さっきどうして近藤さんたちは、君にみたらし団子を作らなくていいって言ったのかな。

僕、何か悪いこと言った?」

組長の言葉に私はピタリと足を止めてしまいます。

「天宮さん?」

「……本当に分からないですか?」

「えっ?」

組長がキョトンとした目で私の方を見ます。

その顔を見た瞬間、腹の奥から熱い物が這い上がってくるような気がしました。

組長がさっき言った、私を信頼していないと言う言葉は、本心からの言葉だと分かったから。

あの時の言葉は冗談だと思っていたけど、組長は本気だった。

組長にとって私は信頼している人ではなくて、ただ好みのみたらし団子が作れる唯一の人物として認識している。

悲しみと同時に、怒りのような激しい感情が出てきた。

日頃の疲れもあって感情が爆発しそうになる。

でも私は理性を総動員して現れた感情を抑え込み、代わりに羽織をギュッと力を込めた。

そして喉の近くまで上がって来たものを吐き出す代わりに、深い溜息を一つ吐きました。

「もういいです」

組長の横を小走りで通り過ぎる。

「あっ、天宮さん、まっ……」

背後から組長の呼ぶ声がしますが、私は無視して部屋に戻りました。
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