私の師匠は沖田総司です【上】
そして、その機会はすぐにやってきた。

天宮さんが奇跡的に一人で廊下を歩いているのを見つけたんだ。この機会は絶対に逃してはならない。

そう思った僕はすぐに天宮さんの所に走った。

「あのっ!」

「あっ、組長。どうしたんですか?」

天宮さんが僕の方を振り返る。そしてニコニコしながら僕を見た。

僕は早まる動悸を押さえ、少し深呼吸をした。

「あっ、あのね!」

「はい」

「あっ……あげ……」

中々蒼蝶と言う名前が口から出ない。

言葉が喉の辺りで引っかかってて気を抜いたら声が裏返りそう。

どうして簡単に蒼蝶って名前が言えないんだよ自分!

名前を呼ぶぐらい簡単でしょ!

内側で己を叱咤していると、不思議そうに僕を見ていた天宮さんが「あの」と言いながら首を傾げた。

「あげ、がどうしたんですか?揚げ出し豆腐でも食べたいんですか?」

全然違う。

夕食のお願いだったらもっと気が楽だよ。こんなに口籠ったりしない。

「あの、組長?」

突然、天宮さんが覗き込むように僕の顔を見た。そしたら頬をが焼けるように熱くなって

「ごめん!何でもないから!」

天宮さんの前から走り出してしまった。
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