私の師匠は沖田総司です【上】
『総司、お願いします』

いつの間にか山南さんは切腹の作法を全て終えていて、肩脱ぎされた着物から覗く腹に小刀の先を向けていました。

師匠は目に浮かんでいた涙を袖で乱暴に拭うと、自身の刀を構えました。

山南さんはそれを見た後、周りにいる近藤さん達を見渡すと迷うことなく

ズブリ

と、小刀を腹に刺した。

『ぐっ……』

山南さんの顔が歪み、口の端から血が流れた。

今、山南さんは想像できないほどの、痛みや苦痛に襲われている。

目を逸らしたい。山南さんの苦しむ姿なんて見たくない。

でも、師匠の中にいる私の願いは通じませんでした。

身体の主導権は師匠にある。だから師匠が目を逸らさない限り、私は目を逸らすことができない。

『っ……』

山南さんは、漏れそうになる声を堪えながら、腹に刺した小刀を横に動かす。

そして

『総……司、そろそろ……』

『はい……』

師匠は持っていた刀を高く上げました。

『いやだ……。本当はやりたくない……死んでほしくない……。

生きて欲しい……』

師匠の気持ちが滝のように流れ込んでくる。

師匠が涙を流す。そして、私も涙を流していた。

そして、師匠が刀に力を込めると、山南さんに更なる苦しみを与えないように、一気に刀を降り下ろした。
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