私の師匠は沖田総司です【上】
山崎君が部屋から出ていくのを見送った後、僕は再び手を伸ばし天宮さんの顔に掛かる髪を払った。

「っん……」

長いまつげがピクッと震える。

一瞬目を覚ましたのかと思ったけど、再び小さな寝息が聞こえた。

「蒼蝶」

君の名前を呼ぶ僕の声は、部屋を満たす穏やかな静寂の中に溶けて消えた。

やっぱり言い慣れていないせいで、体の奥がくすぐったい感じがする。

いつか普通に呼べる日が来るかな。

「っ……」

天宮さんの口が動く。

そして、目尻から涙が滑り落ちた。

「しょ……な……いで……」

「天宮さん、どうしたの?」

言葉を聞き取る為に顔を寄せた。

「師匠……泣かないで……」

師匠泣かないで?……何のことだろう。

夢でもみてるのかな。

とにかく、起こした方がいいよね。悪夢を見てたら可哀想だし。

肩を揺らそうとしたら、天宮さんの涙で潤んだ目が開かれた。

「師匠……!」

突然天宮さんが起き上がり僕の首に腕を回した。

一気に体温が上昇し、頬が焼けるように熱くなる。

「あっ、天宮……さん……!」

「師匠……師匠……」

どんどん腕の力が強まっていき、体が密着する。

僕の胸板に女を象徴するやわらかい物があたり、それがさらに心臓の動きを早めた。
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