私の師匠は沖田総司です【上】
「組長~、そんなに引っ付いていたら綺麗に髪を拭けませんよ」

「頑張って」

いや、頑張ってと言われましても。

「もう……」

どうやら組長は、離れる気は微塵もないようです。

今の組長は甘えん坊の犬ですね。

組長から犬の耳と尻尾が見える気がしますよ。

機嫌がなおったのは良いことですが、甘えん坊になるのも困りものですね。

私は一つ小さな溜息を吐くと、抱き着かれたまま組長の髪を再び拭き始めました。

やっぱり拭き難いですね。

水気を吸って少し冷たくなった手拭いで、組長の髪を撫でるように拭いていると、腰に回された腕に力が込められた。

「天宮さん」

「はい」

「……いやな予感がするんだ」

私は思わず手を止める。

「今回の大阪への出張は、何かが起きる気がする。昔からいやな予感だけは当たるから……怖い」

「組長」

「無事に帰って来るんだよ。僕より先に死んだら許さないから」

「……了解しました」

私は髪を拭いていた手を止め、組長の頭を優しく抱きしめた。

おそらく、組長が感じているいやな予感は、山南さんのことだ。

夢で見た師匠の記憶が脳裏をかすめる。

……組長、貴方には師匠と同じ悲しみを背負わせません。

山南さん、そして貴方の未来は私が変えます。
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