私の師匠は沖田総司です【上】
鍛冶屋から屯所に戻り、部屋にいると

「天宮君」

「山南さん!?」

「ええ、そうですよ」

閉じられた戸の外から、山南さんの声がしました。

急いで戸を開けると、そこには左腕を布で吊っている山南さんの姿がありました。

その姿を見た瞬間、胸に針が刺さるような小さな痛みが走る。

「少し、よろしいですか?」

「はい」

部屋に置いてあった座布団を敷く。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

山南さんはその上に座ると、いつもと変わらない笑みを浮かべました。

でも、その目の下には薄っすらと、クマが浮き上がっています。

「それで、どうしたんですか?」

私が静かな声で言うと、山南さんは懐から長方形の木の箱を取り出し、私の前に置きました。

「これは、何ですか?」

「開けてみてください」

言われるがまま箱を開くと、そこには扇型の簪が入っていました。

全体的に黒い簪には、今の季節を表す、紅葉が蒔絵として描かれています。

「綺麗な簪ですね」

「これを天宮君に差し上げます」

「え!?」

私は思わず声を上げてしまう。

江戸時代、男性から女性に贈る簪には大切な意味がある。

確か、簪は現代でいう、指輪みたいな物。

簪の素材や描かれている絵からして、これは山南さんが私ではない誰かに、送ろうとしていた物だと分かる。
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