私の師匠は沖田総司です【上】
それなのになぜ、山南さんはこの簪を私に渡すのだろう。

山南さんには、私なんかよりもっと相応しい相手がいるのに。

「どうして、明里さんに渡さないんですか?」

と、私が言うと山南さんは悲しそうに目を伏せました。

「私にはもう、彼女にこれを渡す資格はありません」

「どうしてですか?」

尋ねても山南さんは口を開かない。

ただ悲しそうに簪を見つめている。

「山南さん、明里さんと何かあったんですか?」

「……いいえ。とにかく、この簪は差し上げます。捨てるなり、他の誰かにあげるなり、自由にしていいですよ」

「あの、山南さん」

山南さんは立ち上がり、部屋を出て行きました。

すぐに後を追って部屋を飛び出しましたが、すでに山南さんの姿はどこにもありませんでした。

溜息を吐きながら部屋に戻って、後ろ手で戸を閉める。

私の部屋には、明里さんに渡される筈だった簪が、寂しそうに取り残されていました。
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