私の師匠は沖田総司です【上】
「そんな……」

私は男装してここに来たことを後悔した。

もし、女の格好をしていたら、この状況は少し違っていたのでしょうか。

「すんませんな」

「いえ……」

このまま明里さんに会えないまま帰りたくない。

でも、私は目の前の女将さんを困らせたくありませんでした。

この女将さんはイジワルで私を拒んでいる訳じゃないんだ。

ただこの店の規則に従っているだけ。

だから、無理に頼み込むことができませんでした。

どうしようかと、俯いていると

「あれ?蒼蝶ちゃんやない?」

聞き覚えのある声がしました。

顔を上げると、そこには芸妓姿ではなく、小花が描かれた青い着物を着た千代菊さんの姿がありました。

「蒼蝶ちゃ――ん!」

「ふえぇぇぇ!?」

千代菊さんが私に抱き着きナデナデと撫で始めました。

以前会ったときと同じ、犬を撫でるような手つきです。

近くで見ている女将さんはポカンとしています。

「蒼蝶ちゃーん、どうして店に来てくれんかったの?お姉さん、寂しかったんよ」

「すみません!最近色々あったので」

「まあ、ええわ。蒼蝶ちゃん可愛えからな。それでどないしたん?」

「明里さんに用があって来たんです」

「明里ちゃんに?」

「はい」

コクッと頷くと、千代菊さんがニコッと笑いました。
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